// 位相ズレ補正
キックとベースの位相をワンクリックで揃える
逆相ボタンで直せるのは、せいぜい1音分です。グルーヴを動かさずに、キックとベースの位相をワンクリックで1拍ずつ揃える方法を解説します。

短い答え
キックとベースの位相を自動で揃えるには、キックの余韻がベースと重なる部分を1拍ごとに測り、その拍のベースの位相を回転させます。逆相にしたり、タイミングをずらしたりはしません。Kick & Bass Auto Mixのような1拍ごとに処理するプラグインなら、ワンクリックでサブが足し合わされ、グルーヴはそのまま残ります。
要点
- 逆相や固定のローテーターで直るのは1音だけ。正しい角度は拍ごとに変わります。
- 位相は回すだけで、タイミングはずらさない。ノートの位置はそのままです。
- テストループでは、音量を揃えた状態で位相だけで+3.5dBのサブが増えました。
// やり方
3ステップ、ワンクリック
このガイドの拍ごとの位相補正を、プラグインが行います。インスタンスは2つ、数小節、ワンクリックです。
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ステップ 01
キックとベースに挿す
キックのチャンネルに挿してKickを選びます。2つ目をベースのチャンネルに挿すと、キック側と連携します。
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ステップ 02
小節を選んでAUTO MIX
1、2、4小節から選び、ループを再生してAUTO MIXを押します。すべての拍が測定され、ベースの位相がキックに合うように回転します。
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ステップ 03
各拍の角度を読む
各セルに、その拍の回転とずれが表示されます。セルをクリックすればその拍だけを編集でき、A/Bで比較できます。
Kick & Bass Auto Mixはすべての拍を測定し、グルーヴを動かさずに、ベースの位相をキックに合うように回転させます。
プラグインを見るキックをソロにすると、しっかり鳴っています。ベースをソロにすると、気持ちよく転がっています。ところが2つを一緒に鳴らすと、低域がふにゃっと痩せてしまいます。まるで誰かがサブのフェーダーを数dB下げたかのようです。クリップもしていませんし、メーターにもおかしなところはありません。チュートリアルで覚えた対処(逆相にする、ベースをずらす、位相ローテーターを試す)は、ある音では効いても、次の音では逆に悪化します。
この記事のテーマはそこです。キックとベースの位相は、曲全体でひとつの設定ではありません。キックの下でベースが鳴らす音が変わるたびに、位相も変わります。ここでは、手動の修正がなぜ1音で止まってしまうのか、位相を1拍ごとに揃えるとはどういうことか、そしてグリッドから1音も動かさずにワンクリックで揃える方法を解説します。
キックとベースが打ち消し合う理由
キックの正体は、ほとんどが短いサイン波のスイープです。高い音程から始まって一気に下がり、余韻の部分で45〜65Hzあたりに落ち着きます。電子音楽のベースも同じオクターブにいます。2つが同じ瞬間に鳴ると、スピーカーは2つの音を出しているわけではありません。2つを足した、ひとつの波を出しています。
キックの余韻とベースが同じ瞬間に同じ方向へ動いていれば、山と山が足し合わされてサブは大きくなります。逆方向に動いていれば、山が打ち消し合ってサブは小さくなります。これがエンジニアの言う位相、つまりある瞬間にそれぞれの波が周期のどこにいるか、ということです。周波数が近い2つの波が180°ずれていると、お互いをほとんど消してしまうこともあります。
やっかいなのは、打ち消し合いが「音」として聞こえることはほとんどない点です。聞こえるのは「何かが足りない」感覚です。キックはソロのときよりミックスの中で細く聞こえ、ベースはちょうど頭の拍で重さを失います。そこで自然と両方の音量を上げたくなりますが、それではヘッドルームを食うだけで、パンチは戻りません。エネルギーはどちらのトラックからも消えていないからです。2つがぶつかるところで失われているのです。
// 試してみる
位相を回してサブを見る
赤がキック、緑がベース、シアンがスピーカーから実際に出る音です。ベースの位相を回すと、低域が大きくなったり消えたりします。
簡略化したモデル:同じ音程で伸ばしたベースの上に、キックを1発鳴らしています。
手動の修正が1音で止まってしまう理由
キックとベースの位相を手で直す方法は、昔から3つあります。どれも効きます。そして、どれにも同じ限界があります。

逆相にする
位相反転ボタン(Øや「位相反転」と表示されていることが多いもの)は、ベースの波形を上下逆さまにします。ベースがキックに対して180°近くずれていたなら、反転すれば0°近くになってサブが戻ってきます。早くて、タダです。
ただし逆相は、トラック全体に一律でかかる180°の動きひとつです。効くのは、たまたま180°近くにいた音だけです。90°ずれていた音は、反転したあとも反対側に90°ずれたまま。もともと位相が合っていた音は、逆にずれてしまいます。動きのあるベースライン(サイケでもテクノでもハウスでも、ほとんどがそうです)では、問題のある音を別の音と入れ替えているだけになります。
ベースのタイミングをずらす
2つ目の手は、低域がしっくりくるまでベースを数ミリ秒前後にずらすことです。ループによってはこれでうまくいくこともあります。代償はグルーヴです。ローリングベースはキックとの正確な位置関係で成り立っていて、数ミリ秒ずれるだけでノリが変わります。さらに、タイミングをずらすとすべての周波数が同じ時間だけ動くので、周波数ごとに位相のずれ方が違ってきます。基音は合っても、アタックがにじんでしまいます。
固定の位相ローテーター
オールパスの位相ローテーターは、3つの中でいちばんきれいな方法です。ノートのタイミングを動かさずに、低域の位相の角度だけを変えられます。サブがいちばん大きくなるところまで耳で回して合わせるのが定番で、0°か180°しか選べない位相反転ボタンよりずっと優秀です。
限界は固定という言葉にあります。曲全体でひとつの角度を決めることになります。その角度が合っているのは、ノブを回しながら聴いていた音に対してだけです。ベースの音が変われば、キックの余韻との関係も変わり、ベストな角度も動きます。音ごとにローテーターをオートメーションすることもできますが、16小節のループなら何十か所もの書き込みが必要で、そのたびに耳で確認することになります。
手動の修正は、拍ごとに変わる問いに、ひとつの答えしか出せません。
「1拍ごと」に位相を揃えるとは
1拍ごとの位相補正では、キックの1発1発を小さなミックスの問題として扱います。どの拍でも問いは同じです。キックの余韻がベースと重なっているあいだ、ベースの位相をどれだけ回せば合計がいちばん太く、きれいになるか。答えは角度で表され、1拍目、2拍目、3拍目でそれぞれ違う値になることがあります。
具体的には、次の3つです。
- 効くところで測る。キックがベースと重なるのは、各拍の直後の短い時間だけです。今回のテストループでは、423msの1拍のうち、キックの余韻は約200msで終わっていました。位相を決めるのはこの区間です。
- ずらさずに、回す。ベースは位相だけを回すので、ノートのタイミングはそのままです。打ち込んだグルーヴが、そのまま聞こえます。
- 1拍にひとつの角度。それぞれの拍に、その拍に合った回転をかけます。同じ繰り返しのループなら、角度がすべて同じになることもあります。音が変わるベースラインなら、そうはなりません。
手でやるなら、拍ごとにオートメーションした位相ローテーターを耳で確認していく作業です。そのために作られたプラグインなら、同じことが数秒で終わります。
キックとベースの位相をワンクリックで揃える方法
ここではKick & Bass Auto Mixを使った手順を紹介します。1拍ごとに測定して、キックに合うようにベースの位相を回すVST3/AUプラグインです。Ableton Live、FL Studio、Cubase、Reaper、Bitwig、Logic Proのほか、VST3かAUを読み込めるDAWならどれでも動きます。
1. キックとベースにそれぞれ挿す
キックのチャンネルにプラグインをドラッグして、Kickを選びます。次に、ベースのチャンネルに2つ目のインスタンスを挿します。ベース側のインスタンスでは、KICK SOURCEがキック側のインスタンスを指し、KICK LINKEDのランプが点灯します。これで両方のトラックを聴ける状態になります。オーディオトラックがいちばん確実です。ベースがMIDIのシンセなら、先にループをオーディオに書き出しておきましょう。
2. 小節を選んでAUTO MIXを押す
解析する小節数(1、2、4)とグリッド(1拍に1セルなら1/4)を選びます。ループを再生して、AUTO MIXを押します。プラグインが選んだ小節の拍をすべて測定し、位相、キックとベースの音量、サブにかかるサイドチェインを設定します。位相だけを使いたい場合も、あとから音量を調整したりリセットしたりできます。
3. 各拍の角度を読む
波形の下に、拍ごとのセルが並びます。拍の番号、かかった回転の角度、タイミングのずれが表示されます。今回のサイケのループでは、すべてのセルが108°、0msでした。ノブは再生中の拍に追従するので、ノブをつかめばその拍の設定を変えられますし、セルをクリックすればその拍だけを編集できます。A/Bボタンを押すと、同じタイミングのまま元の音と処理後の音を切り替えられるので、違いを判断しやすくなっています。
よければ、処理したベースをWAVとしてプラグインからドラッグして書き出すか、そのままチャンネルに挿しておきましょう。
// 動画で見る
実際のループで見る位相合わせ
動画では、拍ごとに位相を揃える様子を、サイケ、テクノ、3連符のベースラインで見せています。各拍の角度も画面に表示されます。

キックとベースをワンクリックでミックス(位相・音量・サイドチェイン)|Kick & Bass Auto Mix VST3/AU
タイミングは動かさず、回転だけ
グルーヴがそのまま残るのはこの仕組みのおかげなので、理解しておく価値があります。
タイミングをずらすと、波形全体が前か後ろに動きます。すべての周波数が同じミリ秒だけ動くので、位相の変化は周波数ごとに違います。サブでは小さく、中域では大きくなります。しかもノートの頭まで動いてしまいます。グルーヴを作っているのは、まさにそのノートの頭です。
位相回転はその逆です。ノートの頭は元の位置のまま、低域の位相の角度だけを変えます。ベースは同じ16分の位置から鳴り始め、ハイハットとの関係も同じポケットに収まったまま、打ち込んだほかの要素ともぴったり揃ったままです。変わるのは、キックの余韻との関係だけです。
プラグインのセルに2つの数字が表示されるのはそのためです。今回のループでは、ずれの欄はすべての拍で0msでした。揃ったのは、すべて回転によるものです。試してみたければSHIFTノブもありますが、結果を出すのには必要ありません。
レイテンシーは増える?
増えます。ここははっきり書いておきます。ベース側のインスタンスは、低域を処理するために約81msの先読みが必要です。DAWがこの遅れを把握して自動で補正するので、ベースはほかのトラックと同期したままです。キック側のインスタンスにはレイテンシーはありません。プラグインを通してベースのシンセをリアルタイムで弾くと遅れを感じるので、録音用ではなくミックス用のツールとして使ってください。
サイケのローリングベースのループで前後比較
数字はいくらでも作れてしまうので、どう測ったかをそのまま書きます。
テストに使ったのは、典型的なサイケのローリングベースとキック、142BPMで2小節です。プラグイン処理前のキックとベース、処理後のキックとベースの4本のステムを書き出しました。位相の違いだけを聴けるように、処理後のステムの音量を元の音量に揃えたので、AUTO MIXによる音量の変化は結果に含まれていません。そのうえで30〜120Hzだけを取り出し、キックの余韻とベースが重なる各拍の最初の200msを比べました。
| 測定項目(30〜120Hz) | 処理前 | 処理後 |
|---|---|---|
| キックとベースの相関(重なりの区間) | −0.43 | +0.38 |
| 合計したサブのレベル(重なりの区間) | 基準 | +3.5dB |
| キックとベースの相関(ループ全体) | −0.14 | +0.13 |
| 1拍ごとの位相回転 | なし | 108° |
| 1拍ごとのタイミングのずれ | なし | 0ms |
相関は−1(2つの信号が打ち消し合う)から+1(強め合う)までの値をとります。処理前は、重なりの区間でキックの余韻とベースが互いに足を引っ張っていました。処理後は協力し合い、音量を揃えた状態でサブの合計が3.5dB大きくなっています。何も上げずに低域が大きくなるので、そのぶんヘッドルームが空きます。
プラグインのSCOREも、同じループで62から93に上がりました。このベースラインはどの拍も同じ音のパターンを繰り返しているので、8つのセルがすべて108°になっています。拍ごとに音が変わるベースラインなら、セルには違う角度が並びます。
ページ上部のプレーヤーで同じループを聴き比べ、グラフで波形を確認してみてください。低域がしっかり出るヘッドホンかモニターがおすすめです。ノートパソコンのスピーカーでは、この帯域のほとんどがそもそも鳴りません。
// 聴いてみる
拍ごとの位相補正を聴く
再生して、ローリングするサイケのループで処理前と処理後を切り替えてください。変わるのはベースの位相だけで、拍ごとに、レベルをそろえた状態です。聴こえる違いは位相を揃えた効果だけです。
// 実測データ
テストループで変わったこと
−0.43 → +0.38
重なりの区間のキックとベースの相関(30〜120Hz)
+3.5dB
位相だけで増えたサブの合計(音量は揃えて比較)
108°
このループでの1拍ごとの回転
0ms
タイミングのずれ:グルーヴはそのまま
手でやったほうがいい場合
ワンクリックがすべての答えにならない場面も、正直に書いておきます。
- 音が悪ければ、揃えても悪いまま。位相補正は、もともと良い2つの低域パートを協力させるものです。キックの余韻とベースの音程がぶつかっている(キックの余韻がベースラインのルートから半音ずれている)なら、先にキックのピッチを合わせましょう。
- 長いキックの下で伸びるサブ。キックの余韻が1拍より長く、その下でベースが長い音を鳴らしていると、重なりの区間がほぼ1拍全体になります。位相補正はそれでも効きますが、キックの余韻を短くしたり、サイドチェインを深めにしたりするほうが効く場合もあります。
- 解析していない小節。1拍ごとの角度が適用されるのは、解析した小節です。それ以外の部分には、その解析から決まった代表的な設定が使われます。ほかのセクションでベースラインが違うなら、そのセクションも解析してください。
- 好み。少しだけ打ち消し合っているほうが、キックがタイトに聞こえることもあります。最終的な判断ができるように、A/Bボタンと拍ごとのノブが用意されています。
// 手動 vs ワンクリック
手動 vs 1拍ごとの位相補正
| 手動 | ワンクリック | |
|---|---|---|
| 直せる範囲 | 1音だけ、または曲全体でひとつの角度 | 解析した拍それぞれに専用の角度 |
| グルーヴ | ずらすとノートがグリッドから外れる | 回転のみ、ずれは0ms |
| 音が変わるベースライン | 1音ずつ耳で確認 | 拍ごとに測定してセルに表示 |
| 1ループにかかる時間 | オートメーションに数分〜数時間 | 数秒 |
| レイテンシー | なし | ベース側のインスタンスで約81ms、DAWが補正 |
| コントロール | すべて手作業 | 拍ごとに編集でき、A/Bで比較できる |
チェックリスト
- 低域をモノラルで確認する。キックとベースの位相の問題は、まずモノラルで起きます。
- 40〜80Hzが出るモニターかヘッドホンで聴く。
- キックの余韻をベースラインのキーに合わせる。
- 位相を1拍ごとに、タイミングはずらさず回転で揃える。
- 音量とサイドチェインはそのあとで決める。打ち消し合った低域のまま決めた音量は、数dBずれています。
- 確定する前に、同じ音量でA/B比較する。
グルーヴを動かさずに、1拍ごとの位相を自動で揃える。Kick & Bass Auto Mixは、まさにそのために作りました。手でやりたい場合も、ここで紹介した考え方はそのまま使えます。重なりを測り、ずらさずに回し、1拍ごとに答えを出すことです。
// ショート動画
ワンクリック、1分以内
実際のループでプラグインを使う短いクリップです。読み込んでAUTO MIXを押すと、キックが戻ってきます。
// よくある質問
よくある質問
位相回転は耳で分かりますか?
ベースをソロで聴いても、サブの位相回転はほとんど分かりません。分かるのは、ベースがキックと一緒に鳴ったときの結果です。拍ごとの低域が痩せずに、太く安定して聞こえます。前後比較は、両方のトラックを鳴らした状態でなければ意味がありません。
位相補正でレイテンシーは増えますか?
増えます。Kick & Bass Auto Mixのベース側のインスタンスは、約81msの先読みを使います。DAWがこの遅れを把握して補正するので、すべて同期したままです。キック側のインスタンスにはレイテンシーはありません。ミックス用に使い、シンセのリアルタイム演奏には使わないでください。
なぜ拍ごとに角度が違うのですか?
キックの下で鳴っているベースが拍ごとに違う音だったり、同じ音でも周期の違う位置だったりするからです。最適な回転は、その拍でキックの余韻とベースがどうぶつかるかで決まります。今回のサイケのテストのように同じパターンを繰り返すループなら、角度がすべて同じになることもあります。
1拍ごとの位相が適用される小節は?
解析した小節です。それ以外の部分には、その解析から決まった代表的な設定が使われます。ほかのセクションでベースラインが違うなら、そのセクションも解析してください。
逆相にするより良いのですか?
逆相はトラック全体に一律でかかる180°の動きひとつなので、180°近くずれていた音にしか効きません。1拍ごとの回転は、どの拍でも好きな角度をとれるので、逆相にすると悪化する音まで直せます。
グルーヴは変わりますか?
変わりません。位相補正は位相の回転であって、タイミングのずらしではありません。テストループでは、すべての拍でずれが0msでした。ノートは打ち込んだ位置から正確に鳴り始めます。
// Kick & Bass Auto Mix
キックとベースを1拍ごとに揃える
Kick & Bass Auto Mixは1拍ごとに測定し、グルーヴを動かさずにベースの位相をキックに合わせます。
プラグインを見る